IMRADの名前は、Introduction, Methods, Results And Discussionの略である 。この語源からも分かるように、IMRAD型の構成を取る文章は、基本的にはIntroduction(導入 ; I)、 Methods(研究方法 ; M)、Results(実験結果 ; R)、Discussion(考察 ; D)の4つの要素をこの順番に並べた骨格を持っている。通常はIntroductionの前に、Title(タイトル ; T)をおくことや、Discussionの後にConclusion(まとめ ; C)を書くことがほぼ必須で、ほとんどの場合、Titleの後(Introductionの前)にAbstract(アブストラクト ; A)が入るのが普通である。また、文章の要素という程ではないが、それに準ずる役割を担うものとして、文章の最後に、謝辞や参考文献一覧、脚注が書かれていることがほとんどである。そのため本記事では、骨格部分に加え、Title、Abstract、Conclusion等を含めた構成のことを、IMRAD型の定義とする。
関係する国際規格等については、科学技術情報流通技術基準 、歴史については、例えば北川を参照のこと。
表1にIMRAD型の構成要素の概略をまとめる。それぞれの項目にどのようなことを書くべきかについてのより具体的な説明は、それぞれの項目の要説に委ねる。尚、表1に挙げたことよりもより具体的な内容については、「問いと答えが繋がっていないような論文はダメな論文である」といったレベルの常識的な注意を除き、分野や文献、学者によって「どうすべきか」について解説にの若干の温度差があることも念頭においておかれたい。
表1:IMRAD型の文章の構成要素とその役割
【Title (T)】科学の論文においては、(掲載されている雑誌の特段の規定がない限り)通常、論文はIMRAD型で書かれるものとして認識されているため、それを守らぬ論文は受理されない。また、査読のない雑誌や、紀要、その他口頭発表等において、読者(聴衆)はIMRAD型を想定して、読む(聴く)ため、そのような構成をとっていないと読者側に無視される可能性がある。このような話は、単なる偏見でも郷に入れば郷に従えという話でもない。そういう構成をとった方が科学的な議論をする上で便利だからである。IMRAD型で記述しているか否かが科学的と見なされるか否かの分水嶺であるといっても言い過ぎではない。
しかしながら、IMRAD型は多少のバリエーションを許す。MethodとResultが合体して1つの項目になっていることやResultsとDiscussionが合体して1つの項目になっていることもある。本記事では、このような、やや変則なものもIMRAD型と考える。さらに、最近ではNatureなどの最高峰レベルの雑誌に掲載されるに論文においては、Methodを最後に廻す構成、つまりIRDAM型になっていることがよくある。Methodを最後に廻す構成については、IRDAMという呼び方もあるが、本記事では、IMRADと本質的な違いがないと考え、特に強調を要する場合を除いてこれもIMRAD型と考える。さらに、最近では、Materialを初め、詳細なデータ等のディテールを示した「Supporting Online Material」というWeb上のファイルを各ジャーナルのサイト上に置き、購読者にオンラインで配布する方式もとられてきている。その理由は、Methodを紙面の都合から省略せざるを得ないということが、捏造事件等の温床になったという反省がある。オンライン上の独立したファイルにすれば、執筆者には論文全体の論旨とのバランスを考えずに好きなだけ実験の妥当性について詳細に説明する機会が与えられる。
また、I、M、R、D、Cそれぞれが、どのレベルの項目になるのかについては場合による。つまり、節であるべきなのか段落であるべきなのか、数文であるべきなのか1文であるべきなのか、あるいは文の中の数単語であるべきなのかはケースバイケースである。通常は段落レベルか、節レベルか章レベルのことが多い。また、これらの要素のレベルは統一するのが原則である。つまり、通常は、字数制限などの特殊な事情がない限り、Iが段落ならば、MやRも段落とする、Iが節ならMも節とするなど、項目のレベルを揃える。それぞれの長さ(字数)については、通常はRやDが長く、Mは短い等、長さにはばらつきがある。また、それぞれの要素が結合(Result and Discussionのように)されることや省略されることがある。ある程度長い論文(Full Paperや学位論文等)では、I、M、R、D、Cそれぞれを章または節として扱うのが普通である。比較的短い論文(Letter等)においては、I、M、R、D、Cそれぞれが、節として明示されるには至らない程の数段落の集まりのことが多い。それ以下の長さの場合(論文の予稿や講演要旨等)、場合によっては、1文の中にResultとDiscussionが並存するようなことさえありえる。また、要素のうちいくつかが欠落するケースもある。例えば学会等の予稿では、「講演時に行うことは自説の解説ではなく、『自分達のデータにどういう解釈が可能なのかの議論』を行うべきだ」という立場をとる者等は、Discussionを予稿に書かない。
尚、IMRAD型という言葉を明示していない科学の論文の解説書や、学生実験の指南書、文章技術の本、「研究のやりかた論」の本もあり、ここに引用した文献はいずれも優れた定評ある文献だが、これらの本で挙げられている論文の構成法は、IMRAD型そのものである。この中で、特に木下は、I、M、R、D等の文章の構成要素がどうあるべきかの解説が厚く、David Carr Bairdは、結果の処理の仕方や考察の論じ方の解説が厚い。小田中は、段落レベルの構成法(いわゆるパラグラフライティング)に強く、西村は、「執筆計画」などを詳しく解説することで、どういう段取りで論文を書けばよいのかの解説が厚い。また、見庄、中田は、初心者が初めて科学技術論文を作成する上で大事なことを、研究開始の段階から詳しく説明し、初心者でも研究の流れを把握しやすい内容になっている。つまり、知的な労働を行う人間が行えなければならない最低限の能力の1つであるところの「自ら調査(何をどういう方法で調べるか)を計画し実行する」方法についても、興味深い考えが載っている。見延には、統計図表の扱いかたなど、本節では詳しく述べられなかった事柄も解説されている。Allemは,博士課程向けの研究生活ガイドなので、独創性を重視するきらいがあるなど、初心者については少々志が高い側面があるが、時間管理や自己管理等を含む基本的なスタディースキル/アカデミックスキルについて丁寧に解説されているため、研究経験のないものでも充分に読めるものと思われる。グリンネルは研究現場の少々生々しいところまで言及している。
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